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ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~ 表面処理 その他

1997年に発売開始以来、20年間で累計1万台以上を売り上げている軽量小型ミキサー「超高効率小型撹拌機TCM」。

代表取締役社長の中川が会議で発案したのをきっかけに、約3年の月日と、会社の1ヵ月分の利益に相当するほどの開発費用をかけ、製品化にこぎつけるまでには開発チームの苦難の道のりがあった。

加藤

セムコーポレーション 開発部部長: 
加藤

56歳 セムコーポレーションでは古株TOP3に入る。
おっとりしていて、みようによってはぼーっとしているようにも見えるが実はかなりのアイディアマン。 社内でもまだまだ頼られる現役部長。

ミッション:軽量小型で耐蝕性が高く、かつ低コストなミキサーを作れ!

それは、さかのぼること22年前、1995年の定例会議でのことだった。

毎月行われている開発会議で、社長の中川から「コンパクトで軽量、さらに耐蝕性があって薬品槽にも使用でき、販売価格10万円を切る低コストな撹拌機を開発しよう」という発案がなされた。

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

当時、撹拌機(ミキサー)といえば、小型でもインペラー(ハネ)の直径が100mm以上、本体は鋳物製だったため重量は10kgを超え、回転数はといえば300rpm(回転毎分)程度というのが常識だった。さらに、攪拌すれば水面に渦流ができるのがあたり前だった。

低コストに関していえば、中川の意向としては、販売価格だけでなくランニングコスト(消費電力)も圧縮したいということがあった。

開発担当として、営業部門の加藤のほか、技術部門、製造部門からそれぞれ1名が選ばれ、3名の開発チームが結成された。ここから、あらゆる面で従来の常識を覆す戦いが始まったのだった。

船のスクリューにヒントを得て設計したインペラー

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

小型ミキサーの開発は、インペラー(ハネ)から着手した。
ミキサーを小型化するには、まずインペラーを小さくする必要があったのだ。小型でも攪拌力の高さをキープするためには、従来品(3枚のハネが平面に並んだ形)を改良するのではなく、まったく新しいものを一からつくり出す必要があった。

開発を指示した中川の頭に浮かんだのは、船舶の推進力を応用したものだった。開発メンバーの加藤は、一般財団法人日本造船技術センターの門戸を叩いた。センターの担当者は、船のスクリューを作ったことはあってもほかの製品に使われるインペラーは初めてのこと。しかし、加藤の話を聞いた担当者は快く承諾してくれた。

「面白い!やってみましょう」

川本物産(現:セムコーポレーション)と一般財団法人日本造船技術センターとの共同開発を取り付けた開発チームは、設計図をひき、自社工場で試作品を作り、センターに足を運んでアドバイスをもらうこと5回、本業をこなしながら3ヵ月が経過したところで、ようやく、これだというインペラーができあがった。

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ハネの数は、従来品の3枚から4枚に増やし、形状は立体型(マリンタイプ)、大きさもφ50mmしかなく、ミキサーのインペラーとしては異例ずくめだった。

立ちはだかる壁「本当に製品化できるのだろうか…?」

インペラー(ハネ)は完成したものの、従来の小型ミキサーの半分ほどの大きさしかないため、200~300Lのケミカル液やスラリー液などの対象液を十分に攪拌するためには、回転数を3000rpmまで上げることが必須だった。

さらに、これだけ速い回転に耐えられるシャフトには、曲がりなどのなく精度の高いものが要求される。少しでもゆがみがあれば回転により芯振れが発生してしまうためだ。加藤は、試作品のシャフトをガラス板の上で転がして精度を確かめ、隙間を見つけては「これではダメだ!」と欠陥品として弾いた。シャフトの試作は下請け業者に依頼していたが、業者にも根気良く改良を重ねてもらい、1年以上かけてやっと納得のいくシャフトができあがった。

回転の動力となるモーターも製造業者を探して交渉し、一から製造してもらった。通常はモーターからシャフトに至るまでにモーターギア、シャフトギアの2つのギアを経由して動力が伝えられる構造をとるが、今回は、回転数を下げないために、直接ねじ込む「ダイレクトドライブ」方式を採用した。これにより、なんと50Hzで2700rpm、60Hzで3200rpmという高回転数を実現したという。
(※従来品では、50Hzで300rpm、60Hzで350rpm程度)

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

「攪拌時に、水面に渦流を発生させない」という難題は、インペラーの上部にステーターを取り付けることで解消した。開発の過程では、計算と検証で設計・改良を裏付ける技術担当者と、直観と思い付きで「やってみよう」と行動する加藤でお互いをうまく補い合い、開発成功につなげた。

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

開発から2年、1997年についに「超高効率小型撹拌機 TCM」は完成した。重量は3kg弱、シャフトはチタン製、インペラーはPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)製、ガイドパイプはPP(ポリプロピレン)製と耐蝕性も高い。消費電力も45Wに抑えた。小型のため、薬品槽などのタンクに撹拌機架台を取り付ける必要がなく、ドラム缶の口に差しても使用できる。

超小型高効率インペラーとステーター(シャフトの軸受と渦を発生させない部分)を採用したことで、水面の渦流だけでなくキャビテーション(気泡ができては消える現象)の発生もほとんどない。開発を指示した社長の中川も、完成品を見て「理想的なものができた」と喜んだ。

材質を変えたり形を変えたりと約20種類、40~50台の試作品を経て、ようやく現在の姿になった。一時は「商品として完成させられるのか?」と加藤を不安にさせたこともあったが、努力と苦労が実を結んだのだ。

ちなみに、同年の中小企業庁長官賞には、ミサワホームの屋上庭園システムや竹中工務店の竹風堂松代店・池田満寿夫美術館などが並ぶ。

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

受賞以外にも、「日本工業新聞(平成9年6月18日付)」にベンチャー企業枠で紹介されたり、「月刊中小企業」の表紙を飾るなど、メディアにも取り上げられ、華々しいスタートを切った。

「こんなオモチャみたいな攪拌機が実用的であるわけがない」

しかし、お客様からの反応は予期せず冷たいものだった。ターゲットとして想定していたプラント会社からは見向きもされない。イエローをアクセントにした色使いがヨーロッパ製の輸入品を連想させるためか、国産品だと信じてもらえないことも多かった。

既存顧客を回って小型ミキサーを提案するのだが、「こんなオモチャみたいな撹拌機で、200~300Lのタンクなど撹拌できるわけがない」と一蹴される。あまりにも常識と異なる小型サイズと軽量性だったため、かえって受け入れられず、「実験室レベルの攪拌にしか使えないだろう」「バケツ程度の容量までしか攪拌できないのでは?」と軽視されてしまったようだ。

加藤たちが、展示会や客先へタンクを持参しての実演を地道に重ねると、少しずつ「本格的な攪拌機である」ことを認知してもらえるようになった。貸し出し希望も徐々に増え、水処理プラントメーカーやレアメタル回収業界、研究開発の現場、半導体工場、その他薬品製造会社などからの注文が増えていった。

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付属品「ハンディグリップ」、後継機「デジタルケミカルミキサーTCMD」の開発

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

「超高効率小型撹拌機TCM」は、本来、タンクに取り付けて使用することを想定した製品だが、加藤が開発過程で、手に持ったまま作動させたところ、推進力があるハネ構造のため、ふわっと上に持ち上がるような感覚を得た。そこで、これなら女性でもハンディタイプのミキサーとしてラクに使用できると直感し、オプションとしてハンディグリップを追加開発した。

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

ちなみに、これまでの小型ミキサーは他社製品も含め、最低でも重量が10kg以上あったため、手持ちでの使用など到底考えられないことだった。

ベテラン加藤の軽量小型ミキサー開発日記 ~「超高効率小型撹拌機 TCM」開発秘話~

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ポンプメーカーのOEM製品としても販売されるまでに

約3年と、会社の1ヵ月分ほどの利益を費やして開発した軽量小型ミキサー「超高効率小型撹拌機TCM」は、発売10年目で利益を出し始め、いまでは、自社製品として国内外で利用されるロングセラーであるだけでなく、ポンプメーカーからOEM商品としも販売されるようになった。

開発過程で、何度もくじけそうになる加藤を動かしたのは「会社が投資したお金を無駄にはできない」という思いだったという。会社としていくつもの開発プロジェクトを進めるなかで、製品化に至らずお蔵入りになってしまうものもある。そのなかで、従来の常識をことごとく覆して製品開発に成功し、グッドデザイン賞まで受賞した「超高効率小型撹拌機TCM」は、世の中の需要を先取りした製品だったからなのかもしれない。

「ものづくり」が好きだと語る加藤は、現在も新たな新製品開発に取り組んでいるという。まだ見ぬ新製品リリースに期待が高まる。

 

※登場する人物の名前や設定等は架空のものであり、実在のものと一部異なります。

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