HOME > セムコ通信 > アルチザン大澤の水耕栽培機開発日記 ~「らくらく肥料管理機」開発秘話~

セムコ通信

アルチザン大澤の水耕栽培機開発日記 ~「らくらく肥料管理機」開発秘話~ 農業

「農業は重労働で休みがない」など大変な職業というイメージがつきまとい、若者離れによって後継者が不足し、農業の就業人口は年々減っている。労働力の問題以外にも、台風の影響や近年の異常気象による被害を受け、収穫量が安定しないというマイナス面もある。

こうした農業が抱える「負」の部分を解決できる期待されているのが、植物工場内で作物を生産する「水耕栽培(養液栽培)」だ。 今でこそ大手食品メーカーが植物工場を稼働させ、アグリテックの手法の一つとして議論されているが、セムコーポレーションの「らくらく肥料管理機」が開発された1980年代後半の当時、「水耕栽培(養液栽培)」の一般的な認知は低いものだった。

現在、4代目まで商品化されているセムコーポレーションのロングセラー商品「らくらく肥料管理機」の原点を探る。

大澤

セムコーポレーション 営業部顧問: 
大澤

62歳。セムコーポレーションの創立メンバーの一人。
学生時代は大いに遊び、社会人になってからは商品開発に没頭。年間を通して国内外を飛び回っており、お盆前や年末年始前後以外は滅多に会えないレアキャラ。

1980年代、水耕栽培との出会い

大澤が社会人になってから数年が経ち、当時、大澤は中川の父が経営する会社で水処理に関する業務に就いていた。

新卒で入社し働いてきたが、別の仕事をしてみたいと大澤は退職を決意した。

数年後、セムコーポレーションの前身となる川本物産を立ち上げた中川に誘われ、設立したばかりの川本物産に入社。 社内はベンチャー精神にあふれ、社員が常に新製品のアイデアを出しては開発を進める環境だった。

そんななかで大澤は、川本物産が懇意にしていた分析計メーカーの社員から、

「水耕栽培って知ってるか?土ではなく養液を使い、装置で肥料濃度や液温を管理しながら作物を育てる方法なんだ。」

と教えられた。当時、水耕栽培はあまり知られていなかったが、1985年に茨城県で開催されたつくば万博(国際科学技術博覧会)で、株式会社協和が出展した天井一面たわわに実をつけた「トマトの木」がとても話題になっていた。「トマトの木」というのは、水耕栽培により1粒の種から1万個以上を結実したトマトの苗だ。

「水耕栽培か‥今までとは違った仕事で、なんだか新鮮だな。」

そう考えた大澤は、水耕栽培機の開発に取り組むことにした。

自ら営業~納品を行い需要を見極め、本格的な開発を決断

開発を決断 イメージ

「らくらく肥料管理機」の第1号機は、川本物産の既存商品である「ポンプ」と、ヒントをくれた分析計メーカーの「測定器」を組み合わせたもので、大澤が手作りしたものだった。

営業活動も自分で行った。受注が取れれば装置を組み合わせて水耕栽培機を作り、納品する。この一連の業務を一人で担当し、計20台ほど販売した。
販路は、水耕栽培を行う農家や設備メーカーだ。多くの農家は、既存の自動管理装置だと高額でメンテナンスが大変なことから装置を導入せず、手動で養液濃度を計測して養液肥料の追加を行っていた。一定の濃度に調整するのはかなりの手間だったに違いない。

営業~納品を自ら行っていたのには、市場調査という目的もあった。 20台の販売活動を通じて、「これは、売れる」という確信を得た大澤は、本格的に営業・販売活動を行っていくために「らくらく肥料管理機2」の開発に着手した。

年間200~300台を売り上げるヒット商品に

「らくらく肥料管理機1」は、ポンプと測定器がそれぞれ別の製品であったため、組立の手間がかかった。まず大澤は、ポンプと計測器の一体化を図りコンパクトに設計した。既存の自動管理装置のような制御盤は作らず、シンプルな機能構成によりボタン一つで操作ができるようにして、使用者の操作面と価格面の負担を減らしたのだ。パネルの角度も見やすいようにこだわったという。

こうして「らくらく肥料管理機2」は、「らくらく肥料管理機1」を製品化してから1年も経たないうちに完成した。OEM商品として、製造は外注先に任せた。販売して、お客様の声を聞きながら改良していったため、開発費の負担はさほど大きくならずに済んだ。

当時使用していた実際のカタログ

(※当時使用していた実際のカタログ)

【らくらく肥料管理機2の開発ポイント】

  • 現場での設置作業の簡素化
  • 制御盤不要で価格を下げ、メンテナンスを楽に
  • パネルの角度を見やすく設計
  • ボタン一つでコントロールできる簡単操作

「らくらく肥料管理機2」の総販売数は1,000台を超えた。BtoBの装置としては異例のヒットである。この間に縁あって、製造を担っていた外注先の工場を買い取ることとなり、らくらく肥料管理機は、製造も自社で賄う正真正銘の自社製品となった。

責任重大なメーカー業を続ける理由とは?

「らくらく肥料管理機」は、その後、大澤から後任の高山(「スペシャリスト高山の水耕栽培機導入支援記 ~植物工場ができるまで~」)へと開発担当のバトンが渡され、後継機として「らくらく肥料管理機3」「らくらく肥料管理機4」が製品化されている。

「自社製品は、利益率は高いのですが、欠陥があればすべての責任を負わなければならないため、そういった面の大変さがあります。営業マンは、クレーム対応の怖さから自社製品をあまり売りたがらない傾向も見えます。」と大澤は語る。

それでも、セムコーポレーションが自社製品開発に力を入れる理由は、一つには利益確保だが、もう一つには、お客様に本当に求められる製品を送り出すという使命感が存在する。

「らくらく肥料管理機1」の発売当時はまだ「水耕栽培(養液栽培)」という概念が世の中に浸透していなかったが、いまでは農業関係者が「らくらく」と聞けば、セムコーポレーションの製品であるとわかるほど、その知名度は上がった。

養液栽培 イメージ

水耕栽培(養液栽培)は、これまでの農業が抱える問題を解決しうる新しい農業形態の一つとして、期待されている。植物工場で計画的に生産できることから、悪天候による供給不足や価格高騰を避け、安定的に高品質な農作物を生産が可能となる。いわゆる3Kから解放されるため、若者の農業回帰にも期待が高まるだろう。これから日本に広がる植物工場で、セムコーポレーションのらくらく肥料管理機シリーズが活躍するに違いない。

 

※登場する人物の名前や設定等は架空のものであり、実在のものと一部異なります。

関連商品

水耕栽培機「らくらく肥料管理機3」

水耕栽培機
「らくらく肥料管理機3」

pH計/EC計と定量ポンプを1台にまとめた、肥料濃度の自動管理装置です。煩わしい配線などがなく、手軽に設置出来ます。
水耕栽培機「らくらく肥料管理機4」

水耕栽培機
「らくらく肥料管理機4」

pH計/EC計と定量ポンプを1台にまとめた、肥料濃度の自動管理装置です。煩わしい配線などがなく、手軽に設置出来ます。